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2013年05月20日

葉桜。

あの日の彼は、折しも降りしきる雨の中でその枝に一片だけ花を残した葉桜の巨木のようであった。

俺が知っていた彼は、立派な枝振りだがどこか頼りなくて、だけどその枝いっぱいに花を咲かせる桜の若木だった。

彼、その若木は、それから25年、花を咲かせ続けた。
もっと高く、もっと大きく、彼を訪ねる誰もを勇気づけるように。

俺たちはその若木を訪ねるたび、もっと咲け、もっと咲き誇れと声を枯らして叫んだ。

やがてその若木は絢爛と咲き誇る巨木になった。
その一方で病を受け、あるいはその偉容ゆえに幹や枝葉を蝕まれ、少しずつ花を落としていった。

それでもあの日あそこに立っていたのは、俺たちが愛したあの桜の樹だった。
たとえその体が内側から朽ちていたとしても、あれは確かにあの桜の樹だった。

そして、本当にあの桜の樹・・・彼は、その枝に一輪だけ、とっておきの花を残して待っていてくれたのだな、と思う。

その花はあのとき確かに散って、俺たちの長い長い夢のような宴は終わった。

気がつけば彼を取り囲む景色もずいぶん変わったものだ。

花を落とした葉桜は、やがてたくさんの実をつける。
花びらをひとつ、お守りがわりに拾い上げて、俺は祈る。

彼、小橋健太の人生が、これからも実り多いものであるようにと。

投稿者 ushila : 2013年05月20日 23:16

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