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2011年11月16日

TPPと著作権(1)

全4回構想ぐらい。
2回目以降はまだ書けてない。

TPPに参加すると二次創作が壊滅するかもしれない、と赤松健が吹け上がっている話。

要約するとこういうことらしい。
1)TPP参加によって著作権法の改正が求められる可能性がある。

2)その中に、現状親告罪(被害者が訴え出ないと処罰の対象にならない)著作権侵害の非親告罪(被害者が訴え出なくても司法が処罰できる)化が含まれる可能性がある。

3)日本の同人活動は二次創作が主流だが、その大多数は著作者の許諾を得て行われているものではなく、著作者が告訴していないから罰せられていないに過ぎない。

4)なので、著作権侵害が非親告罪化すると、著作者の意向に関わらず、同人作家が処罰されることになる。


突っ込みどころが満載過ぎる。
著作権法どころか民法の大そもそも論から始めないといけない。

まず、著作権法は民法の特別法であるからして。
当たり前だが民法上認められた権利は、権利者が契約によって自由に処分できる、というのが基本である。
有り体に言えば、1億円で買った家を10円で売れ、と言われたときに、所有者には売る自由と売らない自由がある。
一方、仮にこの辺で適当な家を10億円で買いたいなあ、と思っている人が居たとしても、その人が売り手を知らなければ買うことはできない。
当事者双方が合意すれば(公序良俗や強行法規に反しない限り)どんな契約でも成立する反面、申し込みと受諾と言う二つの要件がなければどんな契約も成立しない、というのも、契約の原則である。

言うたら心身を直接傷つける行為や、賭博や禁止薬物の売買のように公序良俗や強行法規に違反するものでない限り、契約や合意によって解決できない民事上の問題は存在せず、契約や合意によらず他人の権利に属する何かを利用した場合は、民事・刑事双方の責任を負うことになる、というのが、ごく単純な法律の構造である。

で、著作物の利用は、その態様によらず、法律で禁止されているわけではない。
至極単純に、他人の権利に属する著作物を利用したければ、権利者の合意を得ろ、と言っているだけだ。

以上大そもそも論終わり。

次に、「著作権侵害」について考える。
赤松はあたかもTPPによって処罰の対象となるのは二次創作だけのように言うが、著作権侵害の態様は二次創作だけではない。
なんとかオークションや場末の縁日やどこかの裏通りで売られている海賊版も、ネットのあちこちに放流(笑)されるリッピングデータも、立派な著作権侵害の産物である。
こうした著作権侵害についても、司法が自己の責任において対処することは不当なのだろうか?


さらに、赤松の言う「同人活動」について考える。
同人活動が最初から二次創作を中心に据えるジャンルだったわけではないはずだ。
アララギや白樺を引き合いに出したら笑われるのだろうが、あれも「同人誌」である。むしろあちらを狭義の同人に据える方が、現状よりも歴史認識としては正しいし、オリジナル系の同人活動が現在も存続している以上、あたかも同人=二次創作とでもいう論調は欺瞞に過ぎない。

この問題というのは、知的財産権に鈍感だった時代に大規模化し、一大産業となった二次創作同人「産業」もしくは「ビジネス」において、二次創作を行う側も、ステークホルダーたる著作者や出版・映像などの業界も、まともな権利処理を行う努力を怠ったところに端緒があるように思う。

要するに、利用者が利用申請をし、権利者がそれに対して許諾をすることが基本となる、当たり前の構造が確立できていれば、あたふたする必要なんてどこにもなかったのだ。

これには利用者側、コンテンツ産業側双方に問題がある。
利用者側の問題についてはこれまで散々言ってきたことだが、同人=趣味という言葉に甘えすぎてきたことに尽きる。
これまた使い古した例えだが、趣味で野球(ゴルフでもテニスでもサッカーでも)をやるからといって、道具も球場もタダで使えるわけではないし、無断となればなおさらだ。
いわんや、そこで「実費」を大きく上回る「利益」を得ているならば、それはもう趣味ではなく、立派な商業ではないだろうか。
サッカーなんて地域リーグならプロ選手がいても入場料タダだぞ。

一方、コンテンツ産業は、二次創作を黙殺し、そこに自分の権利が働いていると言いながら、正しい「値付け」をしてこなかった。
デッドコピーですら把握が困難な状況において、曲がりなりにも創作者がいて別に描いている以上、さらに把握が困難な二次創作についても、許諾しない=使わせないスタンスに固執し、使わせる場合の正当な対価を算出することを怠った。
少なくとも俺はそんな資料見たことがない。あれば誰か紹介してください。

正当な対価とは、この場合、
①作品の制作費
②コケた作品の制作費を回収できるインセンティブ
③二次創作物の制作によって生じる逸失利益(売り上げの減少やイメージの低下)
以上から、
④二次創作物の広告宣伝効果
を差し引いたものと考えれば、モデルを単純化できるのではないだろうか。
①以外は算出の難しいものばかりだが、計算要素が存在しないわけではない。

個人的にはこれ全部足したらゼロ以下になるんじゃないだろうかと思ったりもしている(笑)。
(対価計算の欠落は音楽業界、特にレコード会社の音源利用に対するスタンスにも言えるんだよな)

以上。
同人の問題は、利用者とステークホルダーが向かい合わずに来たことに他ならないと、俺は考える。

で、次に「自由」の問題。
これについてはいろいろな角度から色々と言いたいことがあるので、項を変える。

投稿者 ushila : 2011年11月16日 23:18

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