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2011年10月29日

聖銃槍の刀鍛冶

シ京宮ノソレヒの銃槍(だからぁ の続き。

朝から藍瑠に毒気を抜かれ、さらに入学式などという気分からほど遠くなった俺は、だるさに満ち満ちた体(と、ニャーニャー言いながらまとわりつく藍瑠)を引きずるようにして、昇降口までたどり着いた。

そこには、お約束のクラス分け表が貼られた掲示板があったのだが。
掲示板を端から端まで5回は繰り返し見回して、俺はパニックに陥った。

俺の名前がないのである。
さっきまで俺にまとわりついていた藍瑠は中学時代の友達に見つかり、ひとしきり盛り上がっている最中で、俺のことは意識の外のようだった。

なんだこりゃ。ドッキリってやつか?
四月上旬の空気はまだ涼しいのだが、俺は額にびっしりと汗をかくほどうろたえていた。

「半田くんですね?」
声のする方を見ると、なぜか着物姿の若い女の人が立っていた。

なんで学校に着物?入学式だからアリなのか?
パニックに追い討ちをかけられ、思考がさらに混乱する。
声を出そうとして喉が乾いて張り付いたようになっているのに気がつき、コクコクと頷く。
「はじめまして。校長の行雲です」
アルトの声で名乗りながら、校長は柔らかい動きでこちらに近づいてくる。
なんというか、日舞ってこんな感じだっけか。

「すみません。手違いがあったようで」
校長は俺の目を見ながら、話を続ける。
しかし校長先生ってもっとジジババのイメージなんだがな。
「あなたは普通科ではなく、特別能力開発クラスです」
えっ。何それ。
まだ状況が飲み込めないんですけど。
「入学試験時の検査の結果です。
 あなたには高い適性があることがわかりました。
 今朝おうちに連絡したのですが、あなたはもう出掛けた後だったようで」
そういえば、確かに俺が見ていた掲示板には普通科のクラス分け表が貼ってあったので、俺の名前がなかったのはそういうことらしい。
しかし。
「特別なんとかクラスとか、適性とかって何ですか?」
校長は当然俺の質問を予想していたらしく、にこりと笑って言葉を続けた。
「特別能力開発クラスは、いわゆる特待生のようなものです」
はっ?俺が特待生?
学費がタダになる代わりにめちゃくちゃ勉強させられたり部活でしごかれたりするという、あの?
「え、俺頭よくないし、部活とか興味ないんですけど」
実際問題、困る。
凄く困る。
俺はのんべんだらりと高校生活を送るためにこの学校に入学したのだから。
「そうではないのです。私の説明が悪かったのでしょう」
話が混沌としてきた。
入試の結果で特待生で勉強でも部活でもない。
「あなたたち特別能力開発クラスには、いわば新製品のモニターをお願いしているのですよ」
校長の説明は続いた。
その新製品とやらを可能な限り身に付けて生活することと、ときどき新製品のチェックがある以外は、授業の内容などは特に普通科と変わらないこと。
部活がしたければしていいし、自分でモニターのために必要だと思えば授業を休んでもいいこと。
(まあ、定期テストで赤点を取るとその権利は剥奪されるらしいのだが)
校則の適用が一部免除されること。

で、説明が終わると、校長は着物のたもとから何かを取り出した。
「これが、その新製品です」
校長は俺の目の前に、小さな石(半透明で、なんかキラキラしている)がついたペンダントか携帯ストラップのようなものをちらつかせる。
新製品って言うよりも、持ってると女の子にモテモテとか、お金ががばがばとかって雑誌の広告に載ってるような、そんな感じの見た目だが。
「なんか、うさんくさいっすね」
俺は思った通りのことを口にした。
校長は一瞬目を丸くしてから、またにこりと笑って答えた。
「あなたは正直な人ですね」
いや、だって。
「新製品って感じじゃないっすよ、それ」
もっとハイテクっていうか、ごてごてしたものを想像したのだが、石ころ一個だもんな。
まあ、お守り的な有り難みは感じさせる見た目だが。

俺の言葉を聞いて、校長ははじめて、ほほほ、と、声を上げて笑った。
「そういうことですか。
 本当に高度な技術は、案外見た目ではわからないかもしれませんよ?」
校長はそう言って、石ころを俺の前に差し出す。
「さあ。受け取ってください。半田君?」
どーしよっかなー。
多少なりとも普通の思考を取り戻し、ためらっている俺に、「にゃっ!」という叫び声と共に、背後からなにかが衝突した。
地味に痛い。

こんな叫び声を上げる人間がこいつ以外にいるとは思いたくないわけだが。
「ダンナさんっ!!」
藍瑠だ。
「大変ニャ!藍瑠のクラスにダンナさんの名前がないニャ!!」
いやそれは大した問題ではないのだが。
今俺の目の前で起こっている複雑な事態を藍流に逐一説明する気にもならず、俺は例によって曖昧に答えた。
「まあ、そういうこともあるだろうよ」
「やだニャ!」
藍瑠はほぼノータイムで答える。
なんだそりゃ。脊髄反射か。
「藍瑠はダンナさんと一緒のクラスがいいのニャ!」
そりゃ俺の力の及ぶところじゃねえよ、と答えようとしたとき。
「ほほほほほ」
という、校長の優雅な笑い声が耳に入った。
藍流と俺が同時に校長に振り返る。
「そんなことなら、彼女も特別能力開発クラスに編入すればいいのですよ」
え、なんすかそれ。
「特別能力開発クラスは、能力開発の効率化を図るため、生徒の要請に応じて、2名までのパートナーを付けることを認めています。
 彼女・・・ええと、大友 藍瑠さんでしたか・・・を、あなたの一人目のパートナーとして登録すれば、大友さんの希望は叶えられます」
あー。なんだか。
もうダメだ。いろいろ。
「校長先生、悪いんッスけど」
俺は頭をかきながら、校長の顔を睨み付ける。
我ながら、まんまヤンキーだな。
「話がうますぎて信用できないッスわ」
校長は目を丸くする。
「出席義務ナシの授業料ナシのパートナーつき?
 そんなのなんか裏があるに決まってるじゃないッスか。
 その話受けないと、俺どうなりますか?」
俺は校長にまっすぐ向き直り、校長の目を見る。
「そうですね。元々あなたが受験したのは普通科ですから、普通科の生徒としてどこかのクラスに・・・」
よかった。不合格にはならないらしい。
「じゃあ。」
俺は校長の語尾に声を重ねる。

投稿者 ushila : 2011年10月29日 00:19

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