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2011年11月16日

TPPと著作権(1)

全4回構想ぐらい。
2回目以降はまだ書けてない。

TPPに参加すると二次創作が壊滅するかもしれない、と赤松健が吹け上がっている話。

要約するとこういうことらしい。
1)TPP参加によって著作権法の改正が求められる可能性がある。

2)その中に、現状親告罪(被害者が訴え出ないと処罰の対象にならない)著作権侵害の非親告罪(被害者が訴え出なくても司法が処罰できる)化が含まれる可能性がある。

3)日本の同人活動は二次創作が主流だが、その大多数は著作者の許諾を得て行われているものではなく、著作者が告訴していないから罰せられていないに過ぎない。

4)なので、著作権侵害が非親告罪化すると、著作者の意向に関わらず、同人作家が処罰されることになる。


突っ込みどころが満載過ぎる。
著作権法どころか民法の大そもそも論から始めないといけない。

まず、著作権法は民法の特別法であるからして。
当たり前だが民法上認められた権利は、権利者が契約によって自由に処分できる、というのが基本である。
有り体に言えば、1億円で買った家を10円で売れ、と言われたときに、所有者には売る自由と売らない自由がある。
一方、仮にこの辺で適当な家を10億円で買いたいなあ、と思っている人が居たとしても、その人が売り手を知らなければ買うことはできない。
当事者双方が合意すれば(公序良俗や強行法規に反しない限り)どんな契約でも成立する反面、申し込みと受諾と言う二つの要件がなければどんな契約も成立しない、というのも、契約の原則である。

言うたら心身を直接傷つける行為や、賭博や禁止薬物の売買のように公序良俗や強行法規に違反するものでない限り、契約や合意によって解決できない民事上の問題は存在せず、契約や合意によらず他人の権利に属する何かを利用した場合は、民事・刑事双方の責任を負うことになる、というのが、ごく単純な法律の構造である。

で、著作物の利用は、その態様によらず、法律で禁止されているわけではない。
至極単純に、他人の権利に属する著作物を利用したければ、権利者の合意を得ろ、と言っているだけだ。

以上大そもそも論終わり。

次に、「著作権侵害」について考える。
赤松はあたかもTPPによって処罰の対象となるのは二次創作だけのように言うが、著作権侵害の態様は二次創作だけではない。
なんとかオークションや場末の縁日やどこかの裏通りで売られている海賊版も、ネットのあちこちに放流(笑)されるリッピングデータも、立派な著作権侵害の産物である。
こうした著作権侵害についても、司法が自己の責任において対処することは不当なのだろうか?


さらに、赤松の言う「同人活動」について考える。
同人活動が最初から二次創作を中心に据えるジャンルだったわけではないはずだ。
アララギや白樺を引き合いに出したら笑われるのだろうが、あれも「同人誌」である。むしろあちらを狭義の同人に据える方が、現状よりも歴史認識としては正しいし、オリジナル系の同人活動が現在も存続している以上、あたかも同人=二次創作とでもいう論調は欺瞞に過ぎない。

この問題というのは、知的財産権に鈍感だった時代に大規模化し、一大産業となった二次創作同人「産業」もしくは「ビジネス」において、二次創作を行う側も、ステークホルダーたる著作者や出版・映像などの業界も、まともな権利処理を行う努力を怠ったところに端緒があるように思う。

要するに、利用者が利用申請をし、権利者がそれに対して許諾をすることが基本となる、当たり前の構造が確立できていれば、あたふたする必要なんてどこにもなかったのだ。

これには利用者側、コンテンツ産業側双方に問題がある。
利用者側の問題についてはこれまで散々言ってきたことだが、同人=趣味という言葉に甘えすぎてきたことに尽きる。
これまた使い古した例えだが、趣味で野球(ゴルフでもテニスでもサッカーでも)をやるからといって、道具も球場もタダで使えるわけではないし、無断となればなおさらだ。
いわんや、そこで「実費」を大きく上回る「利益」を得ているならば、それはもう趣味ではなく、立派な商業ではないだろうか。
サッカーなんて地域リーグならプロ選手がいても入場料タダだぞ。

一方、コンテンツ産業は、二次創作を黙殺し、そこに自分の権利が働いていると言いながら、正しい「値付け」をしてこなかった。
デッドコピーですら把握が困難な状況において、曲がりなりにも創作者がいて別に描いている以上、さらに把握が困難な二次創作についても、許諾しない=使わせないスタンスに固執し、使わせる場合の正当な対価を算出することを怠った。
少なくとも俺はそんな資料見たことがない。あれば誰か紹介してください。

正当な対価とは、この場合、
①作品の制作費
②コケた作品の制作費を回収できるインセンティブ
③二次創作物の制作によって生じる逸失利益(売り上げの減少やイメージの低下)
以上から、
④二次創作物の広告宣伝効果
を差し引いたものと考えれば、モデルを単純化できるのではないだろうか。
①以外は算出の難しいものばかりだが、計算要素が存在しないわけではない。

個人的にはこれ全部足したらゼロ以下になるんじゃないだろうかと思ったりもしている(笑)。
(対価計算の欠落は音楽業界、特にレコード会社の音源利用に対するスタンスにも言えるんだよな)

以上。
同人の問題は、利用者とステークホルダーが向かい合わずに来たことに他ならないと、俺は考える。

で、次に「自由」の問題。
これについてはいろいろな角度から色々と言いたいことがあるので、項を変える。

投稿者 ushila : 23:18 | トラックバック

2011年11月13日

俺と彼女が狩人でオトモ。

突発モンハン学園バトル小説の続き。というかエピローグ。

翌日。
例によって藍瑠をなんとか撒いて登校した俺は、教室に向かう廊下を歩いていた。

しゃー。
後ろから珍妙な音がする。
その音は、廊下の曲がり角の向こうから聞こえてくるらしかった。

しゃー。
音がだんだん近づいてくる。
音の主は曲がり角にぶつかる寸前で曲がり、こちらを向く。
それは、白いカーディガンを着た女子らしきシルエットだった。

しゃー。
彼女はこっちへ迷いなく突っ込んでくる。
俺は廊下の壁に張り付くように避けたのだが。

どごおっ!!
俺を回り込むようにブレーキを掛けた彼女は、俺の脇腹に突っ込んできた。
なんなんだ一体。

「やー、君が半田君だねー!?」
彼女はやたら陽気な声で俺に声を掛けた。
ウサギの耳のように見える白いリボンで髪をポニーテールに結わえた頭を前に傾け、俺の顔を覗き込む。
胸には2年生のクラス章が揺れていた。
……しかし、この人おっぱいでかいな。いろいろ小さい藍瑠とは大違いだ。

いやいやいやいや。
何考えてるんだ俺は。
俺は彼女から目をそらして答える。
「そうですけど、先輩は誰ですか?」
彼女は俺の前に回り込み、また体を前に傾けて言う。
「そうかそうかー。新入生だから仕方ないねー。
 私は門幡学園2年、みんなの突進系アイドル、楠巣 潤だよーん?」

ぼよん、という音が聞こえそうなアクションで楠巣先輩は決めポーズをとる。
なんかまた厄介そうな人が出てきた。
俺の額を冷や汗が垂れる。
「そ、それで、楠巣先輩は俺にどんなご用ですか?」
とにかく、なるべく穏便に済ませよう。
「そんな呼び方はナシなんだよー?
 ウルちゃんもしくはウル先輩と呼ぶがいー!」
楠巣……ウル先輩は、俺をビシッと指差して言う。
しかし無駄に動きにキレがあるなこの人は。
「昨日はアオちゃんと遊んでくれたみたいだねー!?」
ええと。
昨日俺が遊んだと言えるのは藍瑠だが。一緒に飯食ったし。
藍瑠の知り合いにこんな人はいないはずだし、あいつがアオちゃんなどと呼ばれているのも見たことがない。
「アオちゃん道で寝てるから、起こすの大変だったんだよー?
 体大きいし、寝起き悪いしー」
えー。
全く話が見えない。
「えーと。アオちゃんって誰っすか」
ウル先輩は目をぱちくりする。
それから、糸目になって口を半円状に開き、全開の笑顔になった。
「やだなー。君が昨日ハントした相手だよー。芦田 葵ちゃん」
芦田のやつ、葵なんて名前なのか。似合わねぇ。
で、そこで俺は思い出す。この人がウル姉か?
で、そうなると、さっきのは「芦田が世話になったな」と言う不良語の言い換えだろうか?
俺は右足を半歩引いて身構える。

楠巣……ウル先輩(と本人が呼べと言う)は、緊張感なくしゃべり続けた。
「アオちゃんは私の従弟なんだけど、昔からやんちゃで、人の話もあんまり聞かなくて、全く困ったものなんだよー」
人の話を聞かないのはこの人も一緒だと思う。
「機能は君が武装化したからハントになったようなもので、入学直後の一年生は護石を持ってても使い方なんか知らないのにねー。
 私はアオちゃんに、あの子護石持ってるね、って言ったけど、まだ使えないよ、って教えてあげたのにー」
いや待て。
芦田は俺とぶつかったのを根に持っていたのではないのか?
「それは、先輩が芦田を俺にけしかけたってことですか?」
ウル先輩は首をかしげる。
「私は間違ったことは言ってないよー?
 いつか君とアオちゃんは戦うことになっただろうし」
ウル先輩はそう言って片目をつぶる。
「それに、私ともね?」
そういうとウル先輩はくるりと斜め後ろを向き、右の足首を跳ね上げる。
なぜ校内で着用を許されているかわからないローラーブレードとニーソックスの足首には、護石が揺れている。
俺の目は翻ったスカートの裾に奪われ気味であったのだが。

「まあでも、アオちゃんの性格と言うか、オツムの作りを知っていたのに、たしかに私も軽率だったよー」
ウル先輩はばつが悪そうに頭をかく。
「あ、そうだ。
 お詫びにひとついいことを教えてあげるねー?
 技術室の先生に、君の護石を見せるといいよー?
 アオちゃんから剥ぎ取った素材で何か作れるはずだしー。じゃーねー」
ウル先輩は言い終えると、満面の笑みで廊下を滑り去っていった。

どかっ!!
ウル先輩を見送る俺の脇腹に、今度は軽めの衝撃が襲う。
もう見なくてもわかる。
「ダンナさん!なんで藍瑠を置いていくニャ!!」
「男には一人になりたいときがあるんだよ」
「藍瑠にはないニャ!!」
いつも通り藍瑠との不毛な会話が始まったところで、今度は後ろから羽交い締めにされる。

振りほどこうとして腕を振り回すと、すごい力で左腕をつかみ上げられた。
「がっはっはー。我輩だ我輩ー」
バカ力の主は担任だった。
「さっそく芦田とやりあったらしいな」
言いながら、担任は俺の左手首を見る。
「ほう。1回やられたか。
 まあ、準備も説明もなく飛び出せばそんなもんだろう。
 しかしガンランスとは、お前なかなかのひねくれ者だな」
担任はそう言って俺の手を離す。

「また痛い目を見たくなければ、いつでも我輩を訪ねてくるといい。
 みっちり鍛えてやるぞ?」
そう言ってニヤリと笑うと、担任は俺たちに背を向け、教室に入っていった。

ともかく。
こうして、俺の高校生活は始まるらしかった。

投稿者 ushila : 23:24 | トラックバック

2011年11月11日

フルバーストパニック・ふもっふ!

突発モンハン学園バトル小説の続き。

振り向いた芦田は、俺に目を止めると、ゆっくりと木槌をふりかぶる。
「なんだ、お前?
 どうしてまだ居るんだー?」
それは俺が聞きたい。
あと、お前自身がここから出られない状況はどう認識しているのか。
「まあ、もう一回倒せばわかるかー」
芦田はまたブンブンと木槌を振り回して近づいてくる。

盾とガンランスの砲身で身を守りつつ、芦田の隙に突きをねじ込むように反撃を加える。
地味なようだが、俺としてはあんなゴツいハンマーをあと何発も食らうのはごめんだった。

そして、俺の亀のようなガードに業を煮やした芦田が、渾身の一撃を降り下ろそうとした瞬間、
「ダンナさん、危ないニャ!!」
藍瑠の声と共に、火がついた樽のようなものが飛んでくる。
それは芦田の横っ面に当たり、ボン、と弾けた。
芦田の頬の皮がめくれ、赤い真皮が見える。

……爆弾?

「藍瑠お前、そんなもんどっから出したっ!!」
って言うか爆弾の方が危ないだろ普通!
「わっかんないニャ!!ダンナさんが危ないと思ったら出たニャ!!」
「お前さっきからファンタジーが過ぎるぞ!!」
「いいから熊を追いかけるニャ!!」
見ると芦田は、足を引きずるようにして俺たちから離れようとしていた。
こちらの攻撃は十分効いているらしい。
たぶん、もう少しだ。

俺は一度武器をしまい、芦田の背後からダッシュをかける。
例の爆炎を撃つための冷却はまだ済んでおらず、俺としては手数で押すしかない状況だ。
芦田の背後から武器出しと共に突きを入れ、そのまま闇雲に芦田の体を突き刺す。
何発目かが叩きつけるような動きに変化すると、俺の指は間違って引き金を引いたようだった。
ずどんっ、という音が何発か重なって響く。

芦田はその場で一度体を伸ばし、空中を引っ掻くような動きを見せた後、倒れ込んでピクリともしなくなった。

まさか……。
俺は武器をしまい、芦田に駆け寄る。
しゃがみこんで、芦田の様子を確かめるが、幸い、気絶しているだけらしかった。

やれやれ。
安堵して立ち上がると、芦田の首元から、俺の左手首に光の線のようなものが伸びた。
それが一瞬強く発光し、やがてゆっくりと消えると、辺りの景色が暗くなっていく。

「ダンナさん!何ニャこれ!!」
俺にわかるかそんなもん。
「とにかく俺にくっついてじっとしてろ!!」
藍瑠が俺の足にがしっ、としがみついた直後、周囲の世界はいつも通りの空間に戻り、俺たちの姿も戻っていた。

芦田は……服装こそ元に戻ったが、そのまま舌を出して伸びている。
ほんとに大丈夫かこいつ、と一瞬思ったが、そのまま見ているといびきをかいて寝始めた。
よく見ると、顔のやけども無くなっている。

まあ。
ここなら人通りも少ないし、大丈夫だろう。
俺は大きく深呼吸する。
すると、腹が大きく鳴り、俺は昼飯がまだだったことを思い出した。

「……ダンナさん、おなか空いたニャ?」
藍瑠が俺の袖を引く。
「ああ。そろそろ昼だし」
藍瑠はニパッ、と笑うと、俺の手を引く。
「お母さんがダンナさんの分までご飯代くれたニャ! ココット'sでこんがりハンバーグ食べるニャ!!」
何か申し訳ない気もするが、俺の軍資金では手が届かない昼飯の誘惑には勝てず、俺は藍瑠に手を引かれるままにレストランを目指した。


続き「俺と彼女が狩人でオトモ。」

投稿者 ushila : 21:32 | トラックバック

これはガンスですか?

突発モンハン学園バトル小説の続き。

「熊ニャ?」
藍瑠は驚いた様子でわたわたと手を振る。

「ああ。熊だ。ケダモノのな」
痛みに怒り狂う芦田の姿を思い出しながら、俺は藍瑠にそう答え、ガンランスの様子を確かめた。
放熱板が閉じている。さっきのアレがもう一発撃てるということならば、いい情報だった。

一方で、槍の穂先はあちこちが欠けたようになっている。刃こぼれってヤツか。
これで十分な威力は出るのか。

「ダンナさんダンナさん、これ何ニャ?飲んでもお腹壊さないニャ?」
藍瑠が何やらビンに入った緑の液体を持って来て、両手で捧げ持つように、俺に差し出す。
ビンのラベルには「応急薬」と、見たことのない字で書いてある。
……ん?
見たことのない字をなんで俺は読めるんだ?
思い直してラベルをもう一度見たが、どうしてもそれは「応急薬」としか読めず、しかもそれは絶対に信頼できると思えた。

「薬だな。怪我をしたときに飲むらしい」
確信しているのに半信半疑と言う不思議な気分で、俺は藍瑠の答える。
「ほんとニャ?」
「ああ、ここに書いてある」
藍瑠はラベルを覗き込んで、あからさまに眉を寄せた。
「……読めないニャ」
ああ。俺も読めない。
でも、わかるんだ。
俺は藍瑠にこれ以上突っ込まれないよう、話題を変える。
「ところで藍瑠、これ、どこで見つけた?」
藍瑠は振り返り、びしっ、と青い箱を指差す。
「あの箱だニャ」
藍瑠に指差された箱を覗き込むと、中には他にもいくつかの物が納められていた。
砥石、携帯食料、地図。
コンビニで強盗に投げつけるようなカラーボール。
あからさまにドクロマークが書かれた瓶と、空の瓶。
縦断まで2種類納められている。
さらに、平べったい箱に納められた何かを手に取ると、これまた読めないはずの文字で「シビレ罠・捕獲用麻酔玉セット」と書いてある。

俺は息を飲む。
こんなゴツい武器を背負っておいて今さらだが、何でもアリか。
しかし、これだけ道具立てがあれば、何とか芦田を倒せるかもしれない。
大体あんな爆炎を食らっているのだ。芦田も無事では済んでいないはずだった。

とりあえず砥石でガンランスの穂先を研ぐ。
素人仕事なので光輝く、という感じではないが、とりあえずボロボロと刃こぼれした感じはなくなった。
それから俺はガンランスをしまい、箱から取り出した道具類を衣装の隙間にねじ込む。
「藍瑠、お前はここで待ってろ」
藍瑠は俺の言葉に首をかしげる。
「なんでニャ?」
お前モノ考えてるか?
「決まってるだろ。熊だぞ?危ないからだ」
「熊は怖いニャ」
藍瑠はコクりと頷き、両手に握りこぶしを作る。
「だから藍瑠はダンナさんにオトモするニャ!!」
藍瑠がそう言いきった瞬間、一面に光が迸る。
光が消えたとき、藍瑠はドングリを象ったようなヘルメットと木目の鎧に身を固め、石斧のようなものを手にしていた。
藍瑠の言葉の意味も、今起きたことも飲み込めず、言葉を失っている俺に、藍瑠は続けて言った。
「熊は怖いニャ」
うん。合ってる。
「だからダンナさんも危ないニャ」
まあ、確かに。
「だから藍瑠はダンナさんにオトモするニャ」
藍瑠はヘルメットの下から、キリッ、という音が聞こえそうな表情で言い放つ。
この顔は藍瑠が自分の理論に絶対の自信を持っているときなので、俺はそれ以上説明するのを諦めた。
「……わかった。じゃあ付いてこい。
 ただ、危なくなったら隠れろよ?」
藍瑠はコクリと頷く。
「ところでダンナさん、このカッコは何ニャ?」
藍瑠は自分の体を見回して言う。
俺が知るかよ。

藍瑠と遭遇した場所を離れ、俺たちは芦田を探した。
この不思議空間は実に風光明媚で、滝やら洞窟やら吊り橋やらと、様々な景色に満ちていた。
さっき戦っていた場所よりも多少緑が深いエリアで、俺たちは芦田を見つけた。

芦田はこちらに背中を向けて座り込んでいる。
俺は巨大な切り株の陰に隠れて、芦田の様子をうかがった。
芦田の回りには蜂らしき虫がたかっており、芦田はしきりに手を口に運んでいる。
よく目を凝らすと、芦田は蜂の巣から直接ハチミツを食っていた。

あー、ツッコミたい。
様子をうかがっているのがバカバカしくなった俺は、切り株の陰から飛び出し、芦田の背後で武器を構えた。

ここでやることは決まっている。
俺はガンランスの引き金を深く握り込む。
砲口から炎がゆっくりと噴き出し、爆発に変わる瞬間、俺は叫んだ。
「お前は絵本に出てくるクマかっーーー!!」

反動で後ずさる俺に、芦田はゆっくりと振り返る。


続き「フルバーストパニック・ふもっふ!」

投稿者 ushila : 21:28 | トラックバック

IG(インフィニット・ガンランス)

突発モンハン学園バトル小説の続き。

俺を掴み上げた芦田は、今度は俺をブンブンと振り回しつつ、肩口と言わず、首筋と言わず、腕やら脇腹やらを嘗め上げ、噛みついて来た。

待て待て待て待てっ!!
お前口くせえし、触感が気持ち悪いし。
そして何より、この絵面はどこにニーズがあるんだっ!!

……。
……はっ!?
大体ニーズって何だ?
俺は我に返り、体をめくら滅法よじる。
足に何かを蹴飛ばした感触があり、俺は宙に放り投げられた。

そのままゴロゴロと地面を転がり、視界が歪む。
この感覚は記憶にある。脳が揺れると言うやつだ。

「がぁっ!!」
よろよろと立ち上がった俺に、芦田が雄叫びと共にハンマーを横殴りにする。
体が言うことを聞かず、ガードも回避も間に合わなかった俺は、横殴りをまともに食らって吹き飛ぶ。
そして、そのまま意識を失った。

なんだか荷車のようなものに乗せられ、大量の藍瑠にまとわり付かれて運ばれる夢を見た俺は、何やらテントのようなもののある場所で目を醒ました。
状況が把握できず、ばりばりと頭をかく。
あー。思い出してきた。
芦田にぶん殴られて気持ちよくなっちゃってたんじゃん。

で、芦田は俺を倒せばこの空間は消えるとか言っていたと思うんだが、なんで俺はまだここから出れてないんだ?

「ダンナさん!!」
そんな俺の思考をぶった切るように、聞きなれた声が響く。
ダダダダッ、と駆け寄ってきた藍瑠が、俺の目の前で急停止し、顔を覗き込むようにする。
「藍瑠、お前、何でここに?」
藍瑠は小首を傾げて答える。
「ダンナさんが藍瑠を置いて帰っちゃったから、追っかけてきたニャ」
追っかけてきたってお前。
ここ、何だかわかんない空間だぞ?
普通入れないだろ。生身で。俺も仕掛けはよくわかんないけど。
「で、ダンナさんはここでなにをしてるニャ?あと、その格好は何ニャ?」
いやまあ。
「実は俺もわかってない。
 が、とにかく俺がアイツをぶっ倒せばここから出られるらしいんだが」
俺がぶっ倒されても、この不思議空間が消滅しなかった以上、芦田の言うことの信憑性はやや落ちてくるのだが。
それでも今はそれしか手がかりがない以上、やるしかなかった。
藍瑠はまた首をかしげる。
「アイツって誰ニャ?」
俺は思ったことを端的に口にする。
「……熊だ」


続き「これはガンスですか?」

投稿者 ushila : 21:23 | トラックバック

2011年11月04日

血迷い熊オーバーキル

突破モンハン学園バトル小説の続き。

武装した俺は見て、芦田はまた狂暴そうに笑い、木槌を振りかぶった。

「なんだお前、ガンランスかー」
そう言いながら芦田が振り下ろす木槌を、俺は盾で防いだ。
手が痺れ、一歩後ずさる。

ガンランスというのが、この武器の名前らしい。
たしかに、ガンという名の通り、何やら引き金のような部品がある。
俺は地面に石突きを突き立ててみる。
ガシャン、と音がして、弾が装填された感覚があった。

ガンランスを構え直し、引き金を引く。
ドンッ、という腹の底に響く音と共に、ガンランスの先から炎が出た。
あまりリーチは長くないようだが、牽制ぐらいの役には立ちそうだ。
あとはまあ、普通の槍だろう。
重いからあんまり派手に振り回せないし、動きにくいが。

そもそも今は、ここから脱出する方法と、変身なんてふざけたことの原因について、芦田から情報をひとつでも多く聞き出すのが目的だ。

芦田は木槌を左右に振りながら、俺に迫ってきた。
俺はガードを固め、芦田の攻撃を受け止める。
芦田の攻撃の終わりに突きを入れ、左に回り込む。
「おい芦田、ここはどこだ!?」
芦田は大きく両手を広げ、こちらに向き直る。
「石が作った場所だー。渓流とか言うらしいー」
芦田が両手を前に振り、片手で横に凪ぎ払った木槌をまたガードする。
今度は砲撃を、芦田の顔面に浴びせてみたが、芦田は怯まない。
「じゃあ、どうやったらここから出られる?」
芦田は緩慢な動作で木槌を振り上げ、また振り下ろしてくる。
盾の上からでも骨に響くような鈍痛が走る。
って言うか、このままじゃ骨折とかするんじゃないか。
「俺がお前を倒せばおしまいだー」
……馬鹿げている。そんな一方的な話はない。
「じゃあ、俺がお前を倒したら?」
俺は芦田の背後に回り込み、大きな尻に突きを入れる。
三発目が縦に叩きつけるような動きに変化した。
「一緒だー。渓流は消えるー」
お前はそんなもっさりしたキャラなのに、なんでそんな色々詳しいんだ。あと、律儀に教えてくれるし。
「って、ウル姉ちゃんが言ってたー」
誰だそれ。まあ、疑問の半分は氷解したわけだが。

だんだん攻撃に目が慣れてきた俺は、ガードとステップを織り混ぜながら、芦田に反撃を加えていった。

「いてぇぇぇぇ!!!」
突然、芦田が吠える。
「いてぇよぉぉぉ!!!」
芦田の振り回すハンマーに、さっきまでより強い力がこもる。

そりゃ痛いだろう。
お前はガードとか回避とかしないのか。
売られた喧嘩だし、ここから出る方法がデスマッチ紛いの完全決着ルールであるらしい以上、俺も手加減できる立場ではないのだが、こっちの武器は何か先尖ってるし。

芦田はいよいよ獣染みた咆哮を撒き散らし、苛烈に木槌を振り回す。
俺は、ガードしている腕だけでなく、全身の間接がきしみ始めるのを感じていた。
どうやら、あまり長くは持たないようだ。
何かこいつを黙らせる方法はないのか。
そう思いながら砲撃の引き金を引いた瞬間、引き金が二段階押し込まれる感触があった。

ガンランスの筒先から青白い炎が迸り、空気が陽炎のように揺らめく。
次の瞬間、砲撃とは比べ物にならない大きな火炎が吹き出し、俺は反動で後ずさった。

芦田は火炎をまともに喰らい、鎧の腕のあたりを吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がって倒れた。

俺は芦田を見ながら、引き金を確かめる。
深く押し込む機能は確かにあるのだが、さっきの火炎が吹き出す気配はない。
ふとガンランスに視線を移すと、放熱板のようなものが開き、熱風が吹き出していた。
ああ、さっきのは一発限りの必殺技なのね。連発できればあっという間に勝負がつきそうなのに。

しかし、今ので間合いが離れてしまった。
俺は武器を背負い、芦田に駆け寄ろうとする。
一瞬早く起き上がった芦田は、口からよだれを垂らしていた。
うわっ、汚ねっ。
怯んだ俺と芦田の間に、どこかから「ぐぅぅぅぅーーー」という重低音が流れる。
えーと。
さっきまでクッキー食ってたと思うんですが、もしかして腹減ってますか?芦田くん?
「がぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
芦田がひときわ高く吠え、俺に飛びかかってくる。
俺はガードする間もなく、芦田に掴み上げられた。


続き「IG(インフィニット・ガンランス)」

投稿者 ushila : 23:17 | トラックバック

クマとネコと竜撃砲

突発モンハン学園バトル小説の続き。
ぼちぼちタイトルがネタ切れ風味。

入学式が終わりクラスに戻る。
担任の無駄に豪快な訓示のようなものをありがたくちょうだいしたまま受け流し、下校時刻と相成った。

で、まだ午前中なわけだが。
半田家の両親は共働きであり、あまり教育に熱心なたちではないので、入学式に両親は来ていなかった。
俺としては自由にやりたいので、むしろありがたい。
藍瑠には母親が駆けつけており、昇降口を出た藍瑠と、その友達まで巻き込んでニャーニャーと賑やかにやっている。
しかし毎度思うのだが、あの親子は似すぎではないのか。藍瑠クローン説。

それはさておき、俺の懐には、母親から昼飯代として渡された千円札が入っていた。臨時収入と言うやつである。
とりあえず昼飯はファーストフードで済ませるとして、残りはどうするか。
昼までは少し間があるので、俺は町をぶらつくことにした。


この町は、いわゆる大都市からは電車で1時間ほど離れた、地方の小さな市だ。
近隣には海も山もあり、自然が多く残る湿地帯などもあったりするし、温泉も出るのだが、特に観光地として栄えているというわけでもない。
ゆえに町と言っても大した規模ではなく、辛うじて昔ながらの映画館がつぶれずに残っているぐらいである。
したがって、ぶらつくにも食事をするにも、選択肢は限られてくるわけである。

入学式はわりとどこの高校でも共通なのか、町には真新しい制服の学生が何人か連れだって歩く姿や、それこそ藍瑠のような親子連れが多く出歩いていた。
そんな人たちを横目に見ながら、とりあえず本屋に入る。

いつも立ち読みで済ませている月刊の漫画雑誌がちょうど発売していたので、ちょっと時間をかけて読んでみた。
脱落した話が面白そうな展開なのだが、残念ながら話の前後関係がわからなかった。
ついでに単行本コーナーを覗いたり、グラビア雑誌のコーナーを冷やかしてみたりしていると、何となく腹が空いてきた。

本屋を出て、たしか右手にハンバーガー屋があったはずだと思いつつ、歩道を歩く。
「おい、お前」
後ろからだみ声がする。
俺じゃないよな、と思いつつ歩を進めると、声の主は大声になった。
「お前だ、そこの高校生!」
俺は辺りを見回す。
なぜか周囲の視線が俺に向いている。
いや、違うでしょ。
目の前の制服姿の男子に目をやると、そいつの視線は俺を経由して、俺の後ろに向かった。

俺も思わず振り向いてしまう。
まず目に入ったのは、はちみつクッキーの箱。
それから、食べかすのたっぷり付いた、制服の襟。

あー。目上げたくねー。
もう誰かわかったし。

「探したぞー、お前ー」
そいつ、芦田はゆっくりした口調で話を続ける。
俺はこいつに付きまとわれるようなことを何かしたのだろうか。
「お前、俺と戦えー」
芦田はこちらの気分を無視して言葉を繋ぐ。

待て。
まっっっったく話が見えん。
なんなんだこいつは。
俺は眉間に手をやる。

「石を持ってるヤツを倒すと、俺は強くなるんだ」

今度はいきなり本題らしい。
石?
そう言えば、さっきこいつはお守りを見て顔色を変えていたな。

「だからお前、俺と戦え」

芦田は太い腕で自分の襟元からお守りをつかみ出し、俺に突き出す。

「……」
どうしたもんかなー。
とりあえずこんな往来の真ん中で頭の悪い問答を続けるのも、これ以上こいつに付きまとわれるのも勘弁願いたかった。
「わかったよ。とりあえずここじゃ何だから」
俺は芦田を裏道に誘導する。
芦田はニヤリと笑い、俺のあとを付いてきた。

裏道に入ると、芦田はいきなりぼそりと「ハント」と呟いた。
芦田の体が一瞬眩しい光に包まれ、次の瞬間、青くてもこもこした衣装に身を包んでいた。
そして、手には大きな木槌を握っている。

辺りを見回すと、さっきまでの寂れた裏通りの風景は、緑の林に変わっていた。

「どうした、お前」
ずんぐりした体型と相まって、青い熊か何かにしか見えなくなった芦田が、身を乗り出して俺を威嚇する。
むしろこいつはこの状況を疑問に思わないのか。

「お前も早く武装しろー」
芦田はさらに両手を振り上げる。

いや、ないだろ。
この状況は逃げるだろ、普通。
俺は芦田に背を向け、思いっきりダッシュする。
景色が変わっていて見当が難しいが、15メートルほど先を右に曲がれば、さっきの通りに戻れるはずだった。

「逃げても無駄だぞー」
芦田はハンマーを後ろ手に構え、のしのしと俺の後ろから迫る。
俺は見当で曲がり角のあたりを右に折れたが、景色は林のままだった。
芦田は建物があるはずの場所を直進して俺を追ってくる。

とりあえず、情報不足だ。
ここがどこで、芦田はどんな仕掛けで変身したのか。
足にはそれなりに自信があるにせよ、あのでかい木槌で殴られたら一発で気持ちよく眠ってしまうだろう。
芦田の攻撃から身を守りつつ、ここから脱出する方法を探すには、どうすればいいのか。

俺はひとつの結論にたどり着き、実行に移した。
「ハント!!」

一面に光が迸る。
光が消えると、俺は笠と着物のような衣装に身を包み、右手に盾を、左手に奇妙な形の槍を持っていた。


続き「血迷い熊オーバーキル」

投稿者 ushila : 01:21 | トラックバック