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2011年05月12日

シ京宮ノソレヒの銃槍(だからぁ

四月。
世間的には心踊る季節らしいが、俺としてはそうでもない。

15歳の春、高校進学と言えば、新しい出会いへの期待に胸を膨らませ、輝くような笑顔で学園の門をくぐるのが、いわゆる大人が期待する正しい少年の図なのだろうが、そんな期待は他の誰かに頼む。

こちとら成績は中の下、得意なことも将来の夢なんてものも特にない、やや素行の良くない新高校生様である。
この学校、私立門幡学園第三高校を選んだのも、要するに家から近くて、特に必死で受験勉強と言うものをしなくても合格できるから、というのが最大の理由であるのだが、おまけになぜか学費がバカ安く、親を説得するのにも都合がよかった。

「おはようだニャ」
そんなこんなで、大人の期待する正しい高校生像とはほど遠い態度で校門をくぐった俺に、いきなり気の抜けた挨拶をかましてくる女がいた。
藍瑠だ。
小柄な体に邪気のない笑顔をキラキラさせて、俺を見上げている。
「あー」
いつもの調子でやり過ごそうとする俺の後ろから、藍瑠は小柄が故に狭い歩幅を高速回転させて追いすがる。
「あー、じゃないニャ!ダンナさんは健気にも新しい制服姿を見せびらかしたくて校門前で待ち伏せしていた幼馴染みの女の子を、そんな適当な態度で扱うのかニャ?」
もしこのやり取りに読者とか視聴者というものがいるとして、ここで俺がさしはさむべきモノローグのほとんどは藍瑠がしゃべってしまったので、
「…あー」
俺はもう一度さっきと同じ気のない返事をして、歩を進めようとした。
「ダンナさんってば!!」
そのダンナさんっての、やめろ、とは、中学からこっち100回は繰り返した台詞なのでもはや言うつもりもないのだが。
「あのな」
さすがにこの調子で教室までついてこられてもどうかと思うので、俺は立ち止まって振り返る。
藍瑠はぼふっ、と俺の胸に激突し、鼻の頭を押さえながら、またもニャ?と呟いて俺を見上げた。
ついてくると言えば、こいつはこんなだが、成績はいいはずなんだよな。
「制服ならお前昨日俺んちに押し掛けて、さんざん見せびらかして帰ったろうが」
藍瑠は不思議そうに俺を見上げてから、くるりん、とその場で一周して見せる。
「やはり制服と言うのは、学校で着てこそ制服ではないのかニャ?」
あー。テンションMAXだ、こいつ。
リアクションを待っている藍瑠に、俺はさらに冷たい態度で接する。
「あのな。高校生になっても妙な語尾で話しかけてくる不思議ちゃんは、俺の知り合いには居ねえの」
藍瑠は、俺の言葉にキョトンとしてから、口を開いた。
「それはそうだニャ」
今度は俺がキョトンとする番だった。
「だって、昨日までの私は高校生じゃないニャ。
 つまり、高校生の私には、ダンナさんは今日初めて会ったニャ!」
あー。なんだそりゃ。
お前はとんち坊主か。
「というわけで、よろしくニャ!ダンナさん!」
藍瑠はさっき以上に邪気のない笑顔で俺を見上げている。
「それにこれはうちの地方の方言ニャので、不思議語尾じゃないニャ」
お前生まれたときから俺のお隣さんじゃねえかよ。
俺はすっかり毒気を抜かれ、苦笑するしかなかった。


続き「聖銃槍の刀鍛冶」

投稿者 ushila : 19:46 | トラックバック